奈良時代から、日本人の頭に浮かんだ言葉やイメージを版に置き換え複製しつづけてきた木版印刷。技術者はただ手順を覚えるのではなく、どういうイメージを誰に伝えるのか、どういう版をつくるのか、どうやって刷るのか、どうすればムダがないか、何百年も切磋琢磨をし伝承しつづけてきたことになる。その技術には、文字で伝えられない日本人のある種の知覚の質が、長い間に凝縮され残されているのではないか。
情報伝達の手段がおそろしく変化し始めた1990年代半ば、たくましく時代を生きる刷り師・関健二さんとデパートの催事場で出会った。木版印刷を木版印刷で伝える仕事をするために関さんに取材し、トップページの3点の印刷物ができあがった。携わってくださったのは、刷り師・関健二さん、彫り師・石井寅雄さん、板師・島野慎太郎さん、越前和紙職人の岩野市兵衛さん。
今や、制作と取材の記録をこのように紹介させていただけるありがたい世の中になった。色褪せることなく鮮やかな版画と百年はもつらしい桜の版木の写真をアップロードしていたら、5年も使っているノートブックパソコンにグレーの幕が降りて来た。なぜかぴったり同じサイズの桜のタブレット、これからも保管場所は必要だ。